プライベートAIとは?

企業は、AIモデルとそれにインプットするデータを管理することでAI戦略を最適化し、リスクを最小限に抑えることができます

Ruth Faller
プライベートAIとは?

生成AIがメインストリームに登場し、エンタープライズAIの成長を加速させてから約1年が経過しました。最近のIDCの報告書によると、生成AIを含むAIへの年間支出は、2023年の1,759億ドルから2027年には5,091億ドルに拡大し、年平均成長率(CAGR)は30.4%に達すると予測されています。[1]

企業がAI戦略に大規模な投資を行っているのは、ビジネスチャンスを捉えているからであり、同時に、競合他社に遅れを取りたくなという理由からです。しかし、AIの導入を加速させる一方で、多くの企業は自社のAI戦略が持続可能かつ責任あるものであることを確認する必要性も認識しています。

また、データ管理と保護についても懸念が高まっています。なぜなら、データがAIの核であるからです。AIを最大限に活用するためには、企業は適切なソースからデータを取得し、それを適切なモデルに投入しなければなりません。ここに、AI戦略の活性化を目指す企業が直面する最大の課題があります。データを危険にさらすことなく、AIモデルの価値を最大化するにはどうすればよいのでしょうか?これを実現するために、多くの企業がプライベートAIに目を向け始めています。プライベートAIとは、特定の組織によって、あるいは特定の組織のために構築され、その組織のみが利用するために作られたAI環境を指します。

プライベートAIはパブリックAIと何が違うのか?

生成AIや大規模な基盤モデルが普及する前は、AIモデルはプライベートモデルで非公開であることがデフォルトでした。これは、各モデルがその企業の特定のユースケースに基づいたプライベートデータでトレーニングされていたからです。パブリックAIが実現可能になったのは、基盤モデル(ChatGPTなどで使用される大規模な言語モデル=LLM など)の時代になってからです。基盤モデルは、様々なユースケースに対応するように微調整することが可能で、異なるユーザーや企業が同じモデルを使用し共有できるようになりました。

以下の表は、プライベートAIとパブリックAIを比較したものです:

 プライベートAI
パブリックAI
目的 特定の事業体によって使用されるよう設計されています。ユーザー企業は多くの場合、データの制御と管理を保持したAI戦略を実行したいと考えています。 共有環境においては、複数のテナントがでオープンなパブリックドメインで使用するように設計されています。これらのユーザーには、消費者や企業内の個々の従業員、またはより広範な企業が含まれることがあります。
モデル サードパーティ、または社内で開発されます。いずれの場合でも、これらのモデルは通常、ファイアウォールの背後にあるプライベートで保護された環境でホストされます。 サードパーティによって開発され、パブリックな環境でホストされます。モデルとのユーザーインタラクションは全てモデルを拡張するために使用できます。
データ
(トレーニング用)
独自のデータセットのみを使用します。多くの場合、企業の最も機密性が高く重要なビジネスデータが含まれています。 多くの場合、公共のプラットフォームで購入できるデータパックなど、一般に入手可能なデータを使用します。ユーザーは、微調整のために独自のデータを追加することも可能です。モデルのサービスプロバイダは、トレーニングデータにアクセスし、保存することができます。
データ
(推論用)
通常、事業体独自のデータを使用します。データにアクセスできるのはその事業体のみです。 専有データまたは公開データのいずれかを使用できます。モデルのサービスプロバイダは推論データにアクセスし、保存することが可能です。
 

ワークロードを実行する場所

 

オンプレミス、コロケーションデータセンター、Bare Metal as a Service(BMaaS)環境など、あらゆるプライベート環境でホスト可能です。 マルチテナント環境(多くの場合パブリッククラウド)でホストされます。
ネットワーク データは、プライベートな専用ネットワーク接続を介してのみ転送されます。 データは、公共のインターネットを横断する可能性があります。

プライベートAIが台頭してきたのは、組織がパブリックAIだけを中心にAI戦略を構築することの限界を認識し始めたからです。プライベートAIという言葉にはまだ馴染みがなくとも、その必要性を認識しています。

プライベートAIが企業に適する理由トップ3

プライベートAIの活用により、以下のように企業がAI戦略を最適化するための多くの機会を提供できます。

自社固有のデータ保護

自社固有のデータをパブリックAIモデルに投入するということは、そのデータを公開することに同意するということになります。まず、自社の機密データを第三者に託すことになり、その第三者がデータを保護するために適切な予防措置を講じるかどうかはわからないということです。また、自社のデータから得られたビジネスインサイトをパブリックAIモデルに組み込むことになり、これは競合他社がそれらのインサイトから直接利益を得る可能性があることを意味します。

プライベートでデータアーキテクチャを使用すれば、自社データを自社内で管理することができます。つまり、データが保護され、自社の利益のためだけに使用されていることを確立できるのです。

規制リスクの低減

現在、規制はますます複雑化しており、世界中の統治機関が、企業がどのようにデータを収集、保存、転送、処理するかについて新たな条件・規制を定めています。データ主権要件やデータライフサイクル管理に関する規則に準拠する必要があるグローバル企業にとって、これらの要件は特に厳しいものとなる可能性があります。企業や組織が、規制や法律を守りながら AIモデルに必要な大量のデータにアクセスするには、どうすればよいのでしょうか?

プライベートAIのアプローチを活用することで、企業はモデルやデータアーキテクチャの設計を通じて、データをエンドツーエンドで管理できるようになります。これには、データの保存と移動に使用する機器、データが保存される物理的な場所、誰がどのような目的でデータにアクセスできるかを正確に指定することなどが含まれます。つまり、パブリックAIモデルを使用する場合とは異なり、コンプライアンス責任を第三者に委託する必要がなくなるのです。

パフォーマンスとコスト効率最適化

企業が独自のデータをパブリックAIモデルに投入する場合、データとモデルは通常、異なる環境に存在します。例えば、パブリックAIモデルはパブリッククラウド環境でホストされていることが多く、企業が自社環境とパブリッククラウド環境間でデータを移動させるたびに、遅延やエグレスチャージが発生する可能性があります。特に、パフォーマンスを最適化するための相互接続パートナーがいない場合はこれが問題となります。

企業はプライベートAI環境を設計することで、こうした問題を最小限に抑えることができます。これは、AIモデルとデータウェアハウスが隣接するようにデータアーキテクチャを構築することを意味し、そうすることで一貫性のある低レイテンシのデータフローが保証されます。また、データが社内のデータアーキテクチャを離れることがないため、企業は自社のデータを移動させる権利を得るために第三者に料金を支払う必要がなくなります。

自社固有のデータをパブリックAIモデルに投入するということは、そのデータを公開することに同意することになります。" Ruth Faller, VP Corporate Development and Strategy, Equinix

プライベートAIに必要なインフラとは?

AIは画期的なテクノロジーであり、独自のインフラを必要としています。従来のITインフラに依存したままでは、企業はAIのメリットを享受できません。企業はパブリックAIを、独自のAIインフラを構築することなく迅速かつ簡単に始めることができる方法だと考えており、実際にこれがパブリックAIの魅力の一つです。

本ブログで述べたように、企業がAI戦略を拡張する準備をする際、そこには独自のプライベートインフラを構築すべき重要な理由があります。このセクションでは、そのインフラがどのようなものであるべきかについてご説明します。

クラウド隣接

AI環境がプライベートであるからといって、パブリッククラウドから完全に切り離す必要はありません。パブリッククラウドにホストされているAI Model as a Service(AIaaS) ベンダーとの接続など、パブリッククラウドのリソースを利用する理由はたくさんあるでしょう。重要なのは、独自の条件でパブリッククラウドに接続できるようにすることです。つまり、クラウド隣接アーキテクチャを構築することで、データの管理権限を保持しながら、専用のプライベートネットワーク接続を介してオンデマンドでデータをクラウドに移動させる必要があるのです。

エコシステムへのアクセス

企業は、単独で独自のプライベートAIインフラを構築する必要はありません。さまざまなパートナーやサービスプロバイダと接続することで、AIインフラに必要な俊敏性と柔軟性を得ることができるからです。適切な場所で適切なデジタルエコシステムパートナーにアクセスすることで、企業はAIインフラを迅速に拡張するために必要なネットワーク、クラウド、SaaSサービスを展開することができ、変化するビジネスのニーズに合わせて長期的に進化を継続することが可能になります。

パートナーが企業のプライベートAIインフラを支援する例として、以下が挙げられます:

  • AIワークロードの密度に関する要件に対応するための液体冷却技術の導入を支援
  • シングルテナントの Bare Metal as a Service を通じ、戦略的な場所で必要なオンデマンドのコンピュート能力の獲得を支援

グローバルリーチ

プライベートAI環境を構築するには、世界中で生成された貴重なデータを取り込める柔軟性が必要です。また、AIワークロードを、インフラが利用できる最適な場所だけでなく、密度とレイテンシの要件を満たす最適な場所に配置する必要があります。

このようなグローバルリーチを自社で構築することを考えると、とても気が重くなります。しかし、エクイニクスのようなグローバルコロケーションパートナーと協力することで、必要な場所に必要なAIインフラを構築できます。エクイニクスは、世界のAI市場の主要プレーヤーを含むパートナーエコシステムと、世界のトップクラウドプロバイダへの低レイテンシでの接続が実現できるオンランプを提供しています。

エクイニクスのお客様が分散型、相互接続型のデジタルインフラを活用して現代のデジタル経済でどのように成功しているかについては、当社のビジョンペーパー「デジタルリーダーシップの未来」をぜひご覧ください。


[1] Rick Villars, Karen Massey, Mike Glennon, Eileen Smith, Rasmus Andsbjerg, Peter Rutten, Ritu Jyoti, Jason Bremner, David Schubmehl, GenAI Implementation Market Outlook: Worldwide Core IT Spending for GenAI Forecast, 2023–2027, IDC Market Note, Doc # US51294223, October 2023.

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Ruth Faller VP, Corporate Development and Strategy
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