エンタープライズにおけるクラウドインフラストラクチャの主流は、今やマルチクラウドアーキテクチャとなりつつあります。TechTargetのEnterprise Strategy Groupによる調査では、94%の組織が複数のユニークなパブリッククラウドを活用していると報告されています[1]。このような動きの背景には、コストの最適化、ベンダーロックインの回避、そして特定クラウドの独自機能や強みの活用といった明確な理由があります。
とはいえ、複数のクラウド環境にワークロードを分散させることで得られる多くの利点の裏には、ネットワークの複雑化という大きな課題も潜んでいます。
クラウド導入の初期段階、いわばハネムーン期にあった企業や組織の多くは、明確な全体戦略を持たずに個別的、場当たり的にクラウドソリューションを導入する傾向にありました。その背景には、既存の取引先企業が自身のサービスをクラウドに移行し始めたことで、それに追従するかたちでクラウド活用が進んだ、という事情もあります。
結果として、可視性や制御性が欠如した非常に複雑なマルチクラウドネットワーク環境が生まれました。現在では、クラウドワークロードの要件に的確に対応するため、意図的に設計されたネットワーク構成が不可欠です。マルチクラウドネットワークに適切に対応しない場合、アプリケーション性能の低下、ネットワークリソースの非効率な利用、さらにはお客様や従業員の体験の質の低下といったリスクを伴います。
そこで本ブログでは、マルチクラウドネットワークとは何か、そしてどのようにすればコストを抑えつつ柔軟性と選択肢を維持しながら、企業や組織のデジタルインフラストラクチャ構築する際にマルチクラウドネットワークを活用できるかを詳しく見ていきます。
マルチクラウド化の背景とその広がり
マルチクラウドネットワークの詳細に入る前に、「マルチクラウドとは何か?」を改めて確認しましょう。一般的には、「複数のパブリッククラウドを利用すること」がマルチクラウド、パブリックとプライベートの組み合わせは「ハイブリッドクラウド」と理解されてきました。
しかし現在、マルチクラウドの概念は拡張されており、パブリックとプライベートクラウド(自社ホスト型やBare Metal as a Serviceを含む)の両方を組み合わせる構成もマルチクラウドに含まれるようになっています。実際、マルチクラウド戦略を採用している企業や組織の多くは、両方のクラウドを併用しています[2]。
したがって、本記事では「マルチクラウド」とはパブリックとプライベートを問わず複数のクラウド環境を指し、「マルチクラウドネットワーク」とはクラウド間を相互接続するネットワーク構成を意味します。
マルチクラウドネットワークとは?
シンプルに言えば、マルチクラウドネットワークとは、異なるクラウド間でのデータ転送を円滑に可能にするネットワークのことです。これにより、分散したクラウド環境を確実に連携させ、最高のユーザー体験を実現できます。
マルチクラウドの定義とは、パブリッククラウド同士、あるいはパブリックとプライベートクラウド間など、さまざまな組み合わせのクラウド間のネットワークを意味することがわかります。
エッジでのクラウド間ルーティング
マルチクラウドネットワークにおける課題
マルチクラウドネットワークの実現方法については今後のブログ記事で詳しく取り上げますが、今回は多くの企業が直面している代表的な課題について紹介します。
まず、各クラウドベンダーは独自の接続ツールを提供しており、企業はそのクラウドネイティブなネットワーク機能を活用するケースが一般的です。しかし、クラウドごとに仕様や操作性が異なるため、ITチームはそれぞれのルーティング を個別に習得する必要がありますが、企業のITリソースは常に逼迫しており、リソースを重複させることは運用上、効率的ではありません。
さらに、一般的なマルチクラウドネットワーク構成では、クラウド間トラフィックを自社のWAN経由で転送するか、インターネットに依存するケースが多く見られます。しかし、これらのアプローチには重大な課題があります。アプリケーションのパフォーマンス低下やネットワークの非効率化、さらにはユーザー体験の悪化につながる可能性があるのです。
マルチクラウドネットワークに中央ネットワークインフラを利用すると、追加のトラフィックで帯域が逼迫し、混雑や遅延、コスト増といった問題を引き起こす可能性があります。また、インターネット接続を使う場合には、以下のようなリスクやデメリットも考慮する必要があります。
- インターネット経由でのクラウド間のデータ転送料金(エグレスコスト)が高額になることがある
- インターネットは共有リソースであり、安定性や予測可能性に欠ける
- セキュリティやコンプライアンス、パフォーマンス要件から見て、一部のワークロードはインターネット経由に不向き
こうした課題を解決するには、戦略的に設計されたマルチクラウドネットワークが求められます。
代替アプローチ:クラウド隣接ネットワーク
マルチクラウドネットワークが複雑化し、従来の一般的なアプローチに多くの課題が見られる中、より優れたネットワーク性能とアプリケーション体験を、低コストかつベンダーロックインなしで実現できる代替手段があることは朗報です。それが、クラウド隣接デジタルインフラストラクチャを活用したクラウド間トラフィックのルーティングです。
クラウド間ネットワークをより自社主導で管理したい場合、ルーターやファイアウォールなどの機能を、クラウドに隣接した中立的なロケーションに配備し、そこから各クラウドへプライベートかつセキュアに接続することが可能です。このプライベート接続は、物理的なCross Connectでも仮想的なインターコネクションでも構いません。
いずれの方法でも、自社WANの帯域を圧迫することなく、インターネットへの依存や高額なデータ転送料金を回避できます。さらに、クラウド間通信のパフォーマンスが向上することで、お客様や従業員の満足度も高まるでしょう。
このクラウド隣接ネットワークのアプローチは、パブリック×パブリックだけでなく、パブリック×プライベートといったクラウドの混在環境にも対応可能です。将来的にクラウド構成やソリューションを見直す際にも、オープン性と柔軟性をもった選択肢のある戦略です。
エクイニクスができること
エクイニクスにおけるマルチクラウドネットワークは、これまで述べてきた通り、クラウド隣接のデジタルインフアストラクチャを活用してクラウド間を接続するアプローチをそのまま実現しています。しかも、マルチクラウド環境の柔軟性に対応するかたちで、オンデマンドで構築することも可能です。
Platform Equinix®を活用すれば、企業は自身の選んだベンダーや導入モデルと連携しながら、一般的なマルチクラウドネットワークの課題を解決できます。自社の物理ハードウェアをコロケーションで展開したり、Equinix Network Edgeを通じて完全自動化された仮想ネットワーク機能(VNF)を導入したりすることが可能です。さらに、Equinix Fabric®を使えば、統合された仮想ルーティングサービスを活用してネットワークを構成することもできます。
エクイニクスは、クラウドネイティブなオンランプ接続を提供するグローバルリーダーであり、約5,000社のクラウド、IT、ネットワークサービスプロバイダの堅牢なエコシステムを有しています。エクイニクスのクラウド隣接ネットワーク機能は、マルチクラウド環境におけるワークロードパフォーマンスを向上させ、ネットワークコストを削減し、導入や展開スピードを加速し、柔軟性を高めます。
ひとつ確かなことは、マルチクラウドとそれに伴うネットワークの課題は今後も拡大しつづけるということです。エクイニクスにおいてクラウド隣接のネットワークリソースを導入することで、マルチクラウド戦略とその投資価値を最大化することが可能になります。
エクイニクスが提供するクラウド隣接インフアストラクチャの可能性についてさらに詳しく知りたい方は、「デジタルインフラストラクチャ リーダーズガイド」をぜひご覧ください。
[1] Enterprise Strategy Group「Distributed Cloud Series: The Mainstreaming of Cloud-native Apps and Methodology」(2023年7月)
※調査によると、94%の企業が複数のユニークなパブリッククラウドを活用していると報告。
[2] Flexera「2023 State of the Cloud Report」
※同レポートによれば、回答者の87%がマルチクラウド戦略を採用しており、そのうち72%はパブリッククラウドとプライベートクラウドを組み合わせたハイブリッドクラウド戦略を実践中。その中でも半数以上が、複数のパブリッククラウドおよび複数のプライベートクラウドを併用しています。