TL:DR
- ハイブリッドマルチクラウド環境において、企業が実験・検証段階から本番運用へ移行するにつれて、クラウドファースト戦略はコストや制御性に関する課題を生み出します。
- インフラストラクチャ適切に配置することで、AIの実験に適したパブリッククラウドの柔軟性と、本番環境に求められる安定したプライベートインフラストラクチャのバランスを取ることができます。
- ハイブリッドマルチクラウドアーキテクチャは、データの管理権を維持しながらコストを最適化し、AIの開発から商用利用までを支援します。
パブリッククラウドは、PoC(概念実証)や高い拡張性が求められるユースケースなど、特定のワークロードにおいて大きな価値を提供します。しかし、本番ワークロードを含むすべてのインフラ要件をパブリッククラウドでまかなおうとすると、いくつかの共通した課題が生じます。
- ワークロードのパフォーマンスやデータ所在地に対する制御性の維持
- 安定して稼働するワークロードにおいて、ネットワーク転送料(Egress)や従量課金モデルによる高コストを回避すること
パブリッククラウドには多くのメリットがありますが、すべてのワークロードに適しているわけではありません。エンタープライズAIの導入が急速に進むなか、パブリックインフラストラクチャとプライベートインフラストラクチャを適切に組み合わせることが、これまで以上に重要になっています。ただし、その実現には慎重な判断が求められ、バランスの取れたアプローチが欠かせません。
場合によっては、パブリッククラウドの方がコスト効率に優れることもあります。たとえば、クラウドサービス上でデータベースを運用する場合、そのサービスにはデータベース運用に関する専門知識や機能があらかじめ組み込まれています。その結果、専任のデータベース管理者を雇用するために必要となる年間20万ドル程度のコストを削減できる可能性があります。
一方で、急激なスケールアップを必要としない安定稼働型のコンピュートワークロードでは、従量課金モデルよりも、同等の環境をプライベートインフラストラクチャで運用する方がコスト効率に優れる場合があります。
現在、多くのITリーダーは、IT環境全体の最適化を目的としてハイブリッドマルチクラウド戦略を推進しています。AIのような新しいユースケースの検証には、引き続きパブリッククラウドを活用しています。クラウドを利用することで、GPUリソースへ迅速にアクセスし、すぐに取り組みを開始できるためです。
エクイニクスは、企業がクラウド環境の拡大やスケールに伴うリスクへどのように対応してきたのかについて、現場に根差した知見を蓄積してきました。ここでは、そうした現場で見えてきた傾向をご紹介します。
クラウド活用の選択肢を広げる
一般的に、企業がクラウドファースト一辺倒の考え方から移行し始めるのは、次のような段階に達したときです。
- 実験・検証段階から本番運用へ移行する
- IT環境を標準化する
- 運用規模を拡大する
- サービスの商用化
こうした段階に到達すると、パブリッククラウドだけで長期的な価値を生み出すことは難しくなるケースが少なくありません。ハイブリッドマルチクラウドアーキテクチャは、こうした課題を重要な領域で軽減する有効な手段となります。Flexeraの「2026 State of the Cloud Report」によると、企業はこれまでクラウド上で運用していたワークロードやデータの23%をすでにクラウドから移行(リパトリエーション)しています。[1]
ネットワーク コスト
データ 転送料(エグレスコスト)やワークロード最適化といった一般的な課題に加え、見落とされがちな問題の一つが、クラウド内ネットワーク通信コストです。
クラウドプロバイダーのネットワーク内でリソース同士を接続するには、次のようなデータ転送サービスが必要になります。
- インターネット接続に利用するネットワークアドレス変換(NAT)ゲートウェイ
- 仮想プライベートクラウド(VPC)同士を接続するトランジット ゲートウェイ
これらのサービスの利用コストは当初は小さいものの、環境の拡大に伴って大きく増加する可能性があります。特に本番ワークロードにおいては、パブリッククラウドのコストメリットを損なう要因となる場合があります。
こうした背景からも、クラウドプロバイダーへのロックインを避ける重要性が高まっています。マルチクラウド戦略を採用することで、企業はよりコスト効率の高いベンダーニュートラルな接続ソリューションを活用できます。
コントロール
パブリッククラウドでのスケール拡大は、コスト増だけでなく、制御性の低下につながる場合もあります。
機密データをパブリック環境で管理することは、セキュリティ上の大きな懸念を招く可能性があります。さらに、大手クラウドプロバイダーはグローバルにサービスを展開しているため、自社データが実際にどの国や地域に保存されているのかを常に正確に把握することは容易ではありません。その結果、データ主権(データソブリンティ)を確実に担保することが難しくなります。パブリッククラウド事業者もソブリン クラウド の提供を進めていますが、現時点では企業のあらゆるインフラストラクチャ要件を単独で満たせる段階には至っていません。
プライベートインフラストラクチャを活用することで、企業は自社データに対する完全な管理権を維持できるだけでなく、複数のクラウドプロバイダーに近接した環境を確保できます。これにより、パブリッククラウドで実行するワークロードやデータの遅延を最小限に抑えながら、クラウドネイティブなストレージへデータを移行することなく、さまざまなLLMを容易に試すことができます。
AIインフラストラクチャに「適切な配置」という考え方を取り入れるには
パブリックとプライベートの最適なバランスが最も重要になる領域の一つが、AIです。
企業は、大規模なAIワークロードへ移行する際にクラウドファースト戦略がどのような影響を与えるのか、またAIワークロードをクラウド上で運用することによる想定外の課題について学び始めています。
重要なのは、パブリックインフラかプライベートインフラかという二者択一ではありません。どのワークロードをどこに配置するべきかという判断です。
パブリックAI
AI活用において、パブリッククラウドには実験や検証を迅速に行えること、最新のサービスやモデルへ容易にアクセスできること、そして導入準備の負担が少ないことといった利点があります。こうした特徴から、パブリッククラウドはAI活用を始めたばかりの企業にとって特に有効な選択肢です。
一方で、トークン単位の従量課金モデルでは、AIモデルに入力されるテキストや出力されるテキストの一文字一文字がコストに影響します。そのため、利用規模が拡大するとコスト管理は急速に難しくなります。さらに、エージェント型AIの普及によって、この傾向は一層強まっています。AIエージェントは、人間のユーザーや他のエージェントとやり取りするたびに、追加のトークンコストが発生します。本番環境では、こうしたコストがどこまで膨らむか予測しにくい場合があります。
また、AI関連データを外部サーバーへ送信することは、そのデータがどのように扱われ、どこに保存されるかに対する制御を手放すことを意味し、セキュリティやコンプライアンス上の懸念につながります。
パブリックAI:ハイパースケーラー、ネオクラウド、またはModel as a Service(MaaS)プロバイダ
プライベートAI
継続的に大規模なワークロードを処理するAIの本番運用や商用展開には、プライベートインフラストラクチャの方が適しています。確かに、初期投資やインフラストラクチャ運用に関する専門知識は必要になりますが、多くの場合、それを上回るメリットが得られます。
また、データをプライベートインフラストラクチャの外へ出す必要がないため、高い制御性を維持できます。これは、金融サービス業界のような規制の厳しい業界において特に重要な利点です。
さらに重要なのは、インフラに対して固定的なコストで運用できることです。利用すればするほど、トークンあたりのコストは安くなります。パブリック インフラストラクチャとは異なり、本番ワークロードではトークン単価を大幅に引き下げられる可能性があります。
プライベートAI:オンプレミス、コロケーション、またはマネージド プライベートクラウド
では、AI導入を進めるリーダーは何を考えるべきでしょうか。
パブリック インフラストラクチャとプライベート インフラストラクチャを組み合わせたハイブリッド マルチクラウド戦略は、企業ごとに最適なバランスの実現を可能にします。AI時代を迎える今、ワークロードを適切な場所に配置する重要性はかつてないほど高まっています。それを支える適切なインフラストラクチャの構成なくして、エンタープライズAI戦略を成功に導くことはできません。
もちろん、企業ごとに置かれている状況は異なります。しかし、一般論として有効なアプローチについてはお伝えできます。
- まずはプライベート インフラストラクチャを中心に据え、クラウドを補完的に活用する:私たちは、エンタープライズワークロードの約80%はプライベートインフラストラクチャの恩恵を受ける一方で、残りの約20%はパブリッククラウドの方が適していると考えています。
- プライベート インフラストラクチャへの投資には十分な価値がある:多くのITリーダーは、プライベート インフラストラクチャの構築に伴うコストや複雑さに懸念を抱いています。しかし、継続的に高い需要が発生する本番環境でのAIワークロードにとっては、もっとも合理的な選択肢と言えます。
- 重要なのは「どこに置くか」だけでなく、「どうつなぐか」:ワークロードをどのインフラで実行するかだけが重要なのではありません。ハイブリッド マルチクラウド特有の要件に対応できるネットワーク基盤が必要です。そうすることで、必要に応じてワークロードやデータを異なる環境間で柔軟に移動できます。
エクイニクスとともに、最適なハイブリッドマルチクラウド戦略を実現する
エクイニクスは、ハイブリッドマルチクラウド基盤の構築と接続を戦略的に進めるための支援を行うとともに、AI時代特有の課題解決をサポートします。
- Equinix Fabric®を利用ることで、選択したクラウドプロバイダーとセキュアなプライベート接続を構築できます。
- クラウドプロバイダがすでに展開しているのと同じ場所で、プライベート インフラストラクチャを構築し、業界最大規模の低レイテンシ クラウドオンランプ を活用することも可能です。
- これにより、ハイブリッド マルチクラウド環境におけるネットワーク構築と運用を大幅に効率化できます。
数字がその成果を示しています。お客様はすでに、Equinix Fabricを活用して世界中で69,000を超える仮想接続を構築しています。
先進企業がどのように最適な接続ソリューションを活用し、パブリック環境とプライベート環境を統合しているのかをご覧ください。ハイブリッド マルチクラウド ネットワーキングの世界的な動向をまとめたエクイニクスの調査レポートを読む。
[1] 2026 State of the Cloud Report, Flexera.

